幼犬の重度の膝蓋骨内方脱臼症の外科治療

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今回は幼若犬(生後80日令のトイプードル)の重度の左側膝蓋骨内方脱臼症の症例です。
1)生後80日令のポメラニアンの重度の左側膝蓋骨内方脱臼症の正面X線画像です。向かって右側肢で大腿四頭筋及び膝蓋骨の重度の内方変位(黒矢印)、大腿骨遠位の内方へ湾曲(黄矢印)、脛骨近位の湾曲(青矢印)などの重度の膝関節の変形が見られます。赤い線は膝関節内の大腿骨遠位端と脛骨近位端の位置関係を示しています。向かって左側(正常な脚)の赤い線は大腿骨幹に対し水平ですが、右側(膝蓋骨の内方脱臼側脚)の赤い線は膝関節の変形のため大腿骨幹に対し斜線となります。   左側膝蓋骨内方脱臼症
 
2)同一犬の生後140日目のX線写真ですが大腿骨、膝関節そして脛骨の変形が更に重度となり、向かって右側の赤い斜線は更にその角度は強くなりました。或る種の小型犬種(トイプードル、ポメラニアンなど比較的足の長い犬種に見られる傾向にあると思われますが?)では大腿四頭筋を構成する内側広筋の重度の萎縮が生後、急速に起こり,患犬の後肢の発育と共に大腿骨の内方への湾曲、膝関節の変形、更には脛骨の変形を生じ、大腿骨そして脛骨の骨幹軸が弓を引いた状態(弓弦効果)が見られるケースが多く、この時点で外科治療が困難となるケースが多く見られます。   左側膝蓋骨内方脱臼症
 
3)今回のpatientはヒロ君(トイプードル75日令♂ 体重900g)。左側の重度の膝蓋骨の内方脱臼症を罹患しています。   左側膝蓋骨内方脱臼症
 
4)正面X線画像ですが、上記のポメラニアンと同様に、向かって右側での大腿四頭筋の内方変位(白矢印)、膝蓋骨の内方変位(青矢印)、膝関節(黄色矢印)の変形のため向かって左(正常肢)と右赤線(患肢)の角度の相違などに注目して下さい。   左側膝蓋骨内方脱臼症
 
5)膝蓋骨の内方変位(白矢印)、脛骨の内旋(黄矢印)などが観察されています。幼若犬の膝蓋骨脱臼の手術では大腿骨遠位端と脛骨近位端の成長板での骨切術を行うため、術後の成長板の発育に悪影響を及ぼすので、早期の外科手術を躊躇しておりましたが、今回はクライアントの了解を得て、生後80日令での手術に踏み切りました。   左側膝蓋骨内方脱臼症
 
手術内容は6)大腿骨滑車溝の再建,7)内側広筋の切除、8)外側関節包の縫縮、9)脛骨稜の外側転位を行い、大腿四頭筋―滑車溝―膝蓋骨―膝蓋靱帯-脛骨稜のアライメントを整えました。
6)大腿骨滑車溝の再建   左側膝蓋骨内方脱臼症
 
7)内側広筋の切除   左側膝蓋骨内方脱臼症
 
8)外側関節包の縫縮   左側膝蓋骨内方脱臼症
 
9)脛骨稜の外側転位   左側膝蓋骨内方脱臼症
 
10)、11) 手術直後のX線画像です。
左側膝蓋骨内方脱臼症   左側膝蓋骨内方脱臼症
 
12)、13) 術後7日目のX線画像ですが、比較的良好な治癒経過を辿っています。
左側膝蓋骨内方脱臼症   左側膝蓋骨内方脱臼症
 
14)これは手術後7日目の動画です。  
 
15)術後30日目のX線正面画像です。形態学的には、大腿骨、大腿四頭筋、滑車溝、膝蓋骨、脛骨そして脛骨稜はほぼ正常な状態に改善され、また運動生理学的にも何ら異常は認められませんでしたが、幼若期の手術の為、今後、彼の大腿骨、膝関節,脛骨そして大腿部の筋肉群などの成長については更なる観察が必要です。なお、挿入されたスクリュウは手術後60日後には除去されます。   左側膝蓋骨内方脱臼症
 
16)手術後30日の動画です。体重も1400gに増加し背も高くなりました。  
 
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